【考察・感想】少女革命ウテナを見てセンチメンタル【20歳まであと4日】

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少女革命ウテナ全39話をようやく観終わった。

 

20歳になる4日前に最終話を迎えたのも、誰かに図られたタイミングだったのかと思わずにいられない。

 

アニメ「少女革命ウテナ」は、ちゃお作品とは思えないその切なく残酷なストーリーと、幾原邦彦によるアバンギャルドな表現で、不朽の名作として名高い。

 

なにがそんなに素晴らしいのか、3点あげてみよう。

 

  1. 【技法】毎話サプライズを受ける斬新な音楽・構成・キャラの動き
  2. 【メッセージ】”少女”が”大人”になるためには何を捨て、何を得る必要があるのか
  3. 【上記2つが融合した全体】”攻め”の表現で伝える”守り”のメッセージ

毎話サプライズを受ける斬新な音楽・構成・キャラの動き

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音楽

「潔く カッコよく 生きていこう」

全編を貫いて示される主人公・ウテナの矜持、それを力強く歌い上げるオープニング

それ以外の楽曲も、重厚なコーラスがストーリーに深みを与える。

 

ストーリー展開

30分をあえて細切れにし、一見関係ないように思えるエピソードを挟み込むことでテンポがグンと良くなったストーリー展開

川村万梨阿こおろぎさとみが演じる影絵少女のおしゃべりが、本編の何を暗喩しているのか、毎回しつこく考えてしまった。

 

造形

そして、ため息がでるほど美しい建築物や空間の構成

舞台となる学園や決闘場、空に浮かぶ城、らせん階段、バラの門、バラの温室…

とくに最終話の、らせん階段上の巨大な天体望遠鏡の引きの絵は息をのむ美しさだった。

 

キャラクターの動き

少女心をドキドキさせるキャラクターたちの艶やかな動き

冷静に考えると「こいつ何しとん」となってしまう謎の動きも、カッコよく美しいキャラクターがやるとドキドキする心を抑えられないものだ。

思春期の小中学生のツボをわかっているとしか言えない。

 

幾原邦彦にしかできない先鋭的な表現方法は、いつの時代に観ても色あせないだろう。

 

【メッセージ】”少女”が”大人”になるためには何を捨て、何を得る必要があるのか

 

このアニメは主人公・ウテナと薔薇の花嫁・姫宮アンシーが”少女”から”大人”になる成長の物語だ。

 

どうすれば大人になれるのか。

 

中学生のころはやきもきするほど気になったが、その答えは見つけられない内に、私もあと4日で20歳になってしまう。

言葉になどできない内に、時間の流れが勝手に私たちを大人にさせるのだ。

 

成長する間に失うものは多い。

小学生のころ、男女関係なく馬鹿みたいに楽しんだ思い出、

中学生のころ、廊下で好きな人とすれ違うだけで友だちと歓声をあげた記憶

どんなに貴く、忘れたくないと思う記憶でも、時間が経つにつれ薄れていく。

貴い記憶ほど、永遠のものにしたいと思う。

 

しかし、永遠などないのだ。

忘れてしまうのだ。

楽しかった思い出も、

好きな人のことも、

友だちと育んだ絆も、

離れていくにつれ、段々と確実に忘れてしまうのだ。

 

さいころの思い出を忘れるということは、それほど大人になったということなのだ。

悲しいことだが、忘れ、失い、別れを告げることで、少女も大人になるのである。

 

姫宮アンシーは、最終話で友だちとも兄とも別れたが、別れたからこそ、希望のある未来へと一歩を踏み出した。

しあわせを掴める確証など無い未来だ。

しかし、それでも彼女は眼鏡を置いた。

女の子は、高校デビュー・大学デビューと事あるごとに眼鏡を外したがらないだろうか。

眼鏡を外し、素顔を見せることで、ひとつ大人になった気がするのだ。

不思議なものだが、女の子はそれだけで強くなったような気になれる。

 

【上記2つが融合した全体】”攻め”の表現で伝える”守り”のメッセージ

 

アニメ「少女革命ウテナ」は最終話で大逆転のある物語だ。

38話をかけて描かれた主人公の矜持や若者たちの絆、そして観客の共感を呼び起こした「小さい頃の忘れたくない思い出」の貴さ

これらすべてが最終話で一気に失われる。

石造の決闘場が崩れ落ちるのとともに、矜持も絆も思い出も、すべて消え去るのだ。

ゆえに観る者の情緒はたまったものじゃない。

 

最終話直前までに私が受け取った「少女革命ウテナ」の核となるものは、「誰しもが持つ永遠にしたい思い出、その貴さ」だった。

鳥かごに閉じ込めるように大切にしたい思い出

学園という閉じた世界の中で、少年少女が、必死に守ろうとするキラキラした思い出

いわば内向きの姿勢だ。”守り”の姿勢だ。

 

そんな”守り”のメッセージを、実に鋭さのある表現技法で伝えるからこそ、毎話新鮮さが失われず、続きが気になる作品に仕上がったのだ。

メッセージと表現技法の対称性が美しい。いつの間にかクセになっていた。

 

ただし、最終話でそのメッセージは覆される。

散々、貴い記憶を永遠のものにしたいとウテナたちは決闘を重ねてきたが、最後にはすべてどこかに消えた。

9割バッドエンドに私には感じられた。

ウテナは、「女の子だから」というただ一点だけで「王子様」にはなれなかった。

「王子様」として学園中の憧れの的となったウテナの矜持も、幾たびの決闘を重ねて築き上げたほかの人々との絆も、親友との思い出も、すべて一瞬にして消え去った。

 

その中で唯一残ったものが、自我の目覚めた姫宮アンシーだった。

ウテナは暁生の用意したシナリオの中では「王子様」になれなかった。

しかし、棺の中のアンシーと手を繋いだことで、救い出せはしなかったが、アンシーは変わった。

彼女の自我が目覚め、成長した。

自ら兄に別れを告げ、ウテナを探しに学園の外へ一歩を踏み出した。

これが大人への成長でなくて何であろうか。

少女の革命でなくて何であろうか。

学園の友に背を向け、楽しかった思い出も忘れ、依存していた人の元から離れ、そして曇った眼鏡を置いて、世界へ飛び出した。

自分を変えてくれた人を見つけ出すために。

 

ウテナとアンシーが再会できるかどうかは実に不確定だ。

神のみぞ知る。

そんな不安定な未来に、しかし新たに踏み出すことこそ、大人に近づくというものだ。

 

一縷の希望が不確定すぎて、観る者は荒ぶる心を抑えきれないが、この苦みの多い情緒こそ、青春ならではのものと言えないだろうか。